溶ける彼女

「貴方なくなるんですって?」
「ええ、まぁ」
「大変ねぇ、戻らないんでしょう?」

ああ、この人も信じているんだ、と彼は思った。
彼女の話と同じく、彼のことも信じているのだと。

「なくなったことはないんですけどね」
微笑みながら自然に会話を繋げると、そうなの、と彼女の母親は眉尻を下げた。

「じゃあほら、おやつもあるから」
「あ、お気遣いなく」
「いいのよう。零さないようにね」

彼女は分かったー、と言いながら彼に手招きし、二階に上がっていった。
彼はその後ろを黙ってついていった。

< 32 / 83 >

この作品をシェア

pagetop