溶ける彼女
「貴方なくなるんですって?」
「ええ、まぁ」
「大変ねぇ、戻らないんでしょう?」
ああ、この人も信じているんだ、と彼は思った。
彼女の話と同じく、彼のことも信じているのだと。
「なくなったことはないんですけどね」
微笑みながら自然に会話を繋げると、そうなの、と彼女の母親は眉尻を下げた。
「じゃあほら、おやつもあるから」
「あ、お気遣いなく」
「いいのよう。零さないようにね」
彼女は分かったー、と言いながら彼に手招きし、二階に上がっていった。
彼はその後ろを黙ってついていった。