溶ける彼女

「君は? なくなって何処に行くの?」

彼女はなくなる、ということを疑いもせずに訊ねた。
彼は少し考えてから口を開いた。

「もしかしたら別の場所に行くのかもしれないし、その場に留まるかもしれない。本当に蒸発して無くなってしまうのかもしれないし、冷やせば元通りになるかもしれない。でも、」

――でも、試したことないから分からない。
何故こんなに本気になって話しているのだろう、と彼は思った。

なくなるはずなどないというのに、話しているうちに自分が本当になくなる体質であるような気さえしてきていた。
そして、いつなくなるのか、なくなったらどうなるのか、恐ろしく思えた。
特に、こんな暑い夏の日には。

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