溶ける彼女
「彼はクラゲだったんだね」
彼女は呟いた。
この夏、何度も虹が架かった川の上の空に。
なくなってしまった彼がもしかしたらいるかもしれない、空に。
「......いきましょう」
母親はきっと「行きましょう」と言ったのだろう。
彼女には「生きましょう」と聞こえた。
彼の分まで生きましょう。
いや、死んでいないのだから違うか。
――彼はなくなったのだ。
彼女はややこしいな、と思いながら、また一人で空に笑いかけた。
「さよならくらい、言ってよね」
空には綺麗な虹が架かっていた。
第四章 最後の夏 終わり