クランベールに行ってきます
結衣は呆気にとられてロイドを見送った後、ローザンをまじまじと見つめた。ふと、ローザンの左の頬がうっすらと赤くなっている事に気付いた。
「もしかして、ロイドに殴られたの?」
厳しい表情で尋ねる結衣に、ローザンは頬を押さえて軽く答えた。
「あ、ばれちゃいました? わからないように、すぐ冷やしたんですけどね」
苦笑するローザンに、いたたまれなくなって、結衣は俯いた。
「ごめんね、わたしのせいで。後でロイドに言っとくから」
「気にしないでください。ぼくの責任でもありますし、ロイドさんの気持ちもわかりますしね」
「だって……」
顔を上げて食い下がる結衣に、ローザンは静かに、けれど強固な意思を持って言う。
「本当に気にしなくていいんですよ。それに珍しいものが見られたから、ぼくとしては、ある意味満足しています」
「珍しいもの?」
不思議そうに首を傾げる結衣に、ローザンはにっこり笑って答えた。
「はい。あんなに取り乱したロイドさんは、初めて見ました」
「……え……」
うろたえたのは何度か見た事がある。けれど、いつもは横柄で強引で、本気か冗談かわからない、人を食ったような態度のロイドが、取り乱したとなると確かに珍しい。結衣にはとても想像できなかった。
顔を引きつらせて絶句する結衣を見つめ、ローザンは静かに微笑む。
「きっと、ロイドさんはユイさんを大切に思ってるんですよ」
「それは……」
結衣の顔は苦笑に歪む。
大切に扱われているような気がしない。いきなり押さえつけて得体の知れないマシンを無理矢理飲まされたし、いつも強引に唇を奪われるし。
大切に思われているのだとしたら、それは多分——。
「王子様が見つかる前に、身代わりの私がいなくなったら、困るものね」