クランベールに行ってきます
7.タイムリミット
てっきり軽率な行動を咎められるものと覚悟して行ったら、意外にも王は危険な目に遭わせた事を結衣に詫びた。
あの青年がセギュール侯爵の名を使い、王宮内に入ってきた事は間違いない。しかし問い合わせたところ、セギュール侯爵は青年の事を知らないと言っているらしい。
たとえ知っていても、青年が失敗してしまった以上、無関係を装うだろう。青年の言っていた事から察すると、誰かに頼まれていたのだろうが、裏に誰がいたのか確証を得るのは難しそうだ。
そして王は、王宮内の警備の強化を結衣に約束してくれた。
ひと息つくと、王は人懐こい笑みを浮かべて、結衣に問いかけた。
「ところでユイ、ロイドとの結婚話に何か進展はあったか?」
そろそろ訊かれるのではないかと思っていたら、案の定だ。結衣は引きつり笑いを浮かべながら答える。
「いえ、何も。彼がずっと忙しくしていますし、私も王子様を演じるのに手一杯で余裕がなかったものですから」
王は少しガッカリしたような表情になる。
「そうか。だが、十日も一緒にいると、ロイドの事がわかっただろう?」
「はい。色々」
横柄で頑固で強引でセクハラな奴です——とは言えない。やはりここは先延ばしにするしかない。
「ですが、私ひとりで決められる事ではありません。この件ついては、王子様の事が落ち着いてから、改めて彼と相談の上、ゆっくりと考えさせて頂きたいと思います」
「わかった。ゆっくり愛を育むがよい」
(いや、そういう意味じゃないんだけど……)
ニコニコと満足そうに微笑む王に、結衣は苦笑しながら挨拶をして、謁見の間を辞した。
結衣を研究室まで送り届けると、ラクロット氏は事件の後処理のため、王の元へ戻っていった。