クランベールに行ってきます
研究室に入ると、部屋の灯りは消えていた。窓から差し込む夕日が、薄暗い室内をオレンジ色に染めている。
誰もいないのかと思ったら、ロイドがコンピュータの横の机に片腕を乗せて、横向きに座っていた。その上の灯りだけが点いている。
「ローザンは?」
結衣が尋ねると、ロイドは今気がついたように慌ててこちらを向いた。
「あぁ、今日はもう帰った」
そして、握った手をまっすぐに結衣の方へ差し出すと、手の平を上に向けて広げた。
「復活したぞ」
手の平の上には、小鳥が乗っていた。結衣は驚きと共に笑顔になる。
「もう直ったの?」
「あぁ。予備のボディにメモリだけ移した。動作確認だ。呼んでみろ」
結衣は小鳥に向かって手を差し伸べると、名前を呼んだ。
「ロイド、おいで」
小鳥はピッと返事をして飛び立つと、結衣の手の平に着地した。
「よかった。さっきはありがとう」
結衣は小鳥を両手で包み込んで頬を寄せた。
「今度はこちらに来させてみろ」
ロイドの声に結衣は顔を上げると、彼を指差し小鳥に命令する。
「ロイド、エロ学者のところへ行って」
小鳥は返事をして飛び立ち、伸ばしたロイドの手に留まった。
ロイドは小鳥を見つめて、小さくため息をつく。
「この情報だけメモリから削除してやればよかったな」
結衣はクスリと笑うと、笑顔で駆け寄った。
「ロイド!」
両手で小鳥を受け取り、頭を撫でていると、横でロイドがボソリとつぶやいた。
「なんだ、そっちか」
顔を向けると、不服そうに手の中の小鳥を見つめている。ふと、礼を言ってなかった事に気付いた。
「あ、さっきは助けてくれてありがとう」
結衣の軽い口調が気に入らなかったのか、ロイドはふてくされたようにそっぽを向いて、吐き捨てるように言う。
「オレは、ついでか」
その様子がおかしくて、結衣がクスクス笑うと、ロイドは結衣を睨み上げながら
「何がおかしい」
と言う。
座ったままでは立っている結衣の額を叩けないせいか、一際すごんで見せたようだが、子供がすねているようにしか見えなくて迫力がない。背が高くてよかったと初めて思った。
結衣が更に笑うと、ロイドは益々不愉快そうに顔をしかめた。