クランベールに行ってきます


「キスで放心するほど感じてるようじゃ、先が思いやられるな」
「だから違うってば! 先って何よ!」

 わめく結衣の耳元で、再びロイドが囁いた。

「知りたければ教えてやる。今からオレの部屋に行くか?」

 いつもの軽口とは少し違うような気がして、背筋がゾクリとした。真面目に反応してはいけないと思い、精一杯冗談として受け流す。

「行かないって前に言ったでしょ? この、エロ学者!」
『エロガクシャ』

 別の場所から聞こえた結衣の声に驚いて、二人同時にそちらを向くと、机の上で小鳥がロイドのメガネをつつきながら、首を傾げていた。
 ロイドは目を細くして、結衣を見つめると額を叩いた。

「音声多重で言うな」

 いつものロイドに戻った事にホッとして、結衣はひざの上から立ち上がった。振り向くと、来た時と同じように、少し俯いてぼんやりしたロイドの姿があった。
 詳しい事はよく分からないが、時間がないのにやる事がたくさんあって、少し混乱しているようだ。結衣の知る限り、この十日間、王子の捜索に関して成果も上がっていない。それで心に余裕をなくしているのだろう。

 大きなロイドが、途方に暮れる小さな子供のように見えた。
 結衣は側に寄ると、ロイドの頭を腕の中にそっと抱きかかえた。

「エネルギー充填、百二十パーセントなんでしょ? あなたの超優秀な頭脳を存分に働かせて。あなたなら絶対できるから」

 ロイドは結衣の手をそっと握ると、静かに返事をした。

「あぁ……」

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