クランベールに行ってきます
8.ロイドの決意
すでに日が沈み、夕闇の迫る研究室は益々暗くなってきた。ひとつだけ点いた灯りの下で、結衣はロイドの頭を胸にかかえて、先ほど彼がそうしてくれたように、優しく頭を撫でていた。
蜂蜜色の髪は、見た目が人形の髪のようで、硬くごわごわしているのかと思ったら、案外柔らかく手触りがよかった。
しばらくそうしていると、ロイドがポツリとつぶやいた。
「おまえ、ホント胸小さいな」
「……え……」
思わず手を離して一歩下がると、ロイドはメガネをかけて結衣を見上げながら更に言う。
「最初、ゴツッて、肋が当たったぞ。女の胸に抱かれてるような気がしない」
結衣はムッとして眉を寄せると、ロイドの頭を小突いた。
「悪かったわね!」
ロイドはニヤニヤしながら、両手をこちらに向けて握ったり開いたりしてみせた。
「オレに任せてみろ。ひと月で三倍にしてやるぞ」
怪しい投資ビジネスにでも勧誘されているような気がして、結衣は大きくため息をつく。
「……その手つき、やめて」
だが、ふと好奇心に駆られて、ついつい問い返した。
「ねぇ、それって本当に大きくなるの?」
ロイドは腕を組んで、大真面目に答える。
「さぁ……。ここまでささやかな胸に出会ったのは初めてだからな。これまでに顕著な成果が現れたのを実感した事はない」
「だったら、三倍になるかどうか、わからないじゃないの」
結衣が肩を落として、ため息混じりに言うと、ロイドはニヤリと笑って再び両手をにぎにぎする。
「生体実験を試みるなら、協力するぞ」
「結果がどう転ぶかわからない生体実験は、許可しないんじゃなかったの?」
「局長権限で特別に許可する。人体に悪影響がない事はわかっているからな」
「そういうの職権濫用って言わない? 形が悪くなったらどうするのよ」
「まず形がなければ、悪くなりようがない」
「形ぐらいあるわよ! 失礼ね!」
頭を叩こうとしたが、いつものごとくヒョイと避けられて空振りに終わった。