クランベールに行ってきます
結衣はいつものロイドに戻った事にホッとしながらも、不愉快そうに小鳥を呼び寄せる。
「もう! 落ち込んでるのかと思って心配して損した。ロイド、おいで!」
手の平に飛んできた小鳥を見て、もうひとつ疑問が湧いてきた。
「そういえばさっき、私、思い切り襲われてた気がするんだけど、この子どうして、あなたの邪魔しなかったの?」
ロイドは机に片手で頬杖をつくと、横目で結衣を見上げて口の端に笑みを浮かべた。
「おまえが嫌がってるように見えなかったんだろう」
「そ、そんな事ないわよ」
結衣が焦って否定すると、ロイドは更に目を細めて意味ありげな視線を注ぐ。
「そうか? 放心してる時、艶っぽい表情してたぞ」
一瞬にして顔に血流が集まってくるのがわかって、結衣はクルリと背を向けた。
「お茶、淹れてあげる」
そう言ってスタスタ歩き始めると、後ろでロイドのクスクス笑う声が聞こえた。
艶っぽい表情って、いったいどんな顔していたんだろうと思うと、恥ずかしくてしょうがなかった。
研究室の隅にある給湯コーナーの灯りを点けてお茶を淹れながら、結衣はチラリとロイドの様子を窺った。彼は机に向かってノートパソコンを操作し始めていた。頭が働くようになったらしい。
結衣はホッとひと息つくと、お茶を持ってロイドの側に戻った。
お茶を机の上に置き、いつもはローザンが座っているメインコンピュータ前の椅子を引いて、ロイドの隣に座った。
覗き込むと、画面にズラズラと文字を打ち込んでいた。何が書いてあるのかはわからないが、ただの文書のように見える。
「何やってるの?」
結衣が尋ねると、ロイドは手を休めてお茶を一口すすり、こちらを向いた。
「頭を整理しようと思って、やる事リストを作っている」
「え……こんなにあるの?」
改めて画面を見ると、画面の上から下まで数十行に渡って、文字がびっしり並んでいる。