クランベールに行ってきます
パンと派手な音がして、結衣は目を見開いたまま硬直した。いつもならヒョイと軽くよけられるのに、まともにヒットしてしまったようだ。
ロイドは少し頬を撫でた後、メガネをかけ直し、結衣をまっすぐ見つめた。少し目を細め、口の端を片方持ち上げると、静かに言う。
「それでいい」
そして背を向け、王子の部屋を出て行った。
結衣は呆然とロイドの背中を見送ると、よろよろと移動してソファに座りポツリとつぶやいた。
「見え見えなのよ。そんなんじゃ、益々好きになっちゃう」
ロイドはわざと結衣に嫌われようとしている。それは多分、結衣がクランベールに未練を残さないように。
頑固者のロイドは何が何でも結衣を日本に帰すつもりだ。それならせめて、気持ちよく日本に帰れるように、なんとしても王子を見つけ出してほしい。
結衣は少し微笑んで、ソファの背もたれに留まった小鳥に話しかけた。
「余計な事するなって言われてるけど、考えるだけなら、かまわないわよね」
小鳥は結衣を見つめて、首を傾げる。
結衣は王宮内の怪現象や遺跡の事、王子失踪の事について考えてみる事にした。
その前に、三時のケーキを何にするか考えていなかった。
結衣は内線電話でラクロット氏に掃除の続きを頼むと、材料になりそうなものを確認するため、厨房へ向かった。