クランベールに行ってきます
ローテーブルの上も部品やネジがゴロゴロしている。
「そこで待ってろ。おまえ、酒は飲めるか?」
「うん。少しなら」
「じゃあ、少し付き合え。机の上の物は端に避けておいてくれ」
ロイドは白衣を脱いでソファの背もたれに引っかけると、床に散らばった部品類を器用に避けながら、リビングから出て行った。
結衣は言われた通り、机の上に転がった物を拾い集め、先ほどロイドが置いた設計図の上にまとめて置いた。
少ししてロイドが二つのグラスを持って戻って来た。片方を結衣に差し出し、彼は結衣の隣に腰を下ろした。
結衣は受け取ったグラスの中を覗き込む。甘い香りのする赤い酒が入っていた。口に含むとジュースのように甘酸っぱい果実酒だった。
「あ、これ、おいしい」
結衣が続けてもう一口飲むと、横からロイドが忠告した。
「アルコール度数は結構あるぞ。一気に飲むなよ」
ロイドはお酒も甘い物が好きなのだろうか、と思い、ふと見るとロイドのグラスには琥珀色の酒が入っていた。多分ウイスキーとかブランデーとかのようなものだろう。
「で? 何が聞きたいんだ? 酔っぱらう前に話しとけよ」
「うん」
結衣はグラスを机の上に置くと、朝疑問に思った事を順番に尋ねた。
まずは東屋の石段を壊した犯人。これは予想通り分かっていないという。
先日の誘拐未遂犯の青年も、知らないと言ったらしい。元々彼は王子を連れて行く事だけを、セギュール侯爵の使いの者から頼まれていたという。何のために連れて行くのかさえ、聞かされていなかったらしい。
彼の記憶から映像化されたセギュール侯爵の使いは、侯爵の関係者の中にはいなかった。もっとも、脳の記憶している映像そのものが不確かなので、似顔絵を描かせたり、風体を口で語らせるよりは、分かりやすいという程度の信頼性しかないのだが。
次に物体消失や出現の怪現象。王宮以外にラフルールの街でも何か起きているのか。
ロイドは何も聞いていないという。ただ、小さな物が一つや二つなくなったくらいでは、騒ぎにならないだろうから、全く起きてないかどうかはわからない。
この件については、王宮内に住んでいるロイドより、街から通っている使用人たちの方が、確かな情報を持っているだろう。