クランベールに行ってきます
「あんな変わり者に幼児期を育てられて、よくも真っ直ぐに育ったものだと自分でも感心する」
「……え……」
確かに、ひねたり、ダークサイドに墜ちたりしてはいないが、あなたも充分変わり者だから、とは言わずにおいた。
「案外、オレもニッポンから来たのかもな」
楽しそうに問いかけるロイドに、結衣は軽くため息をつく。
「それはないと思うわ。あなたはどう見たって日本人じゃないもの」
厳密に言えば、日本から来た可能性はなくもないが、日本人である可能性は極めて低い。
結衣は自分の髪をつまんで、ロイドに見せた。
「日本人は私みたいに、黒い髪で黒い目なの。あなたの容姿は地球上だと、ヨーロッパあたりじゃないかしら」
「ふーん。国ごとに髪や目の色が決まってるとは、変わってるな」
そういうわけではないが、説明すると長くなりそうなので、止めておいた。いつか機会があれば説明しよう。
ロイドがもしも、地球上のどこかからクランベールにやって来たのなら、二十七年前の事件記事に記録が残っているかもしれない。日本に帰ったら調べてみよう。
いつかまた、クランベールに来ることがあるなら、その時に教えてあげたい。
結衣はひと息つくと、気持ちを切り替えて最後の質問をぶつけた。
「じゃあ、これで最後。私がクランベールに来た日に、世界規模の気候変動や天変地異があった?」
「ない」
ロイドの答えを聞いて、結衣の口元は思わず緩んだ。自分の立てた仮説がいよいよ正しいものに思えて仕方ない。
結衣はうかれて、机の上のグラスを取ると、果実酒をグビグビあおった。
横からロイドが慌ててグラスを取り上げる。
「おい、一気に飲むなと言っただろう。何か分かったのか?」
ロイドの問いかけに結衣は、待ってましたとばかりに彼を見据えて言う。
「結論から言うわ。王宮にもう一つ遺跡があるのよ」
「はぁ?」
ロイドは面食らって目を見開いた。