クランベールに行ってきます


 長い説明を終えてホッとしたからか、急に酔いが回ってきた。目の焦点が合わず、すぐそこにいるはずのロイドが近付いたり遠退いたりしているように見える。
 幻を見ているような気がして、結衣は手を伸ばした。手の平がロイドの頬に触れ、ホッとした。
 この頬に触れるのは二度目だ。朝、思い切り、ひっぱたいてしまった。

「痛かった?」

 問いかけるとロイドは少し笑って、結衣の手に自分の手を重ねた。

「あぁ。おまえに嫌われるのが、あんなに痛いとは思わなかった」
「ごめんね」
「いい。自業自得だ」

 囁くようにそう言うと、ロイドはメガネを外した。合図を受けて、結衣は静かに目を閉じる。
 視界が塞がれ一瞬クラッとした直後、抱き寄せられ唇も塞がれた。優しく甘く小刻みに繰り返されるキスに、結衣の鼓動は次第に早くなり、益々頭がクラクラする。
 身体が傾き始め、結衣はロイドの背中に腕を回してしがみついた。

 結衣を抱きしめたまま口づけながら、ロイドはソファに倒れ込んだ。急に体勢が変わり、更に酔いが回って、結衣の頭の中はぐるぐる回り始める。
 結衣の頬を両手で包み込み、ロイドのキスは徐々に激しく変わっていく。
 アルコールの酔いとロイドのぬくもりの相乗効果で、ふわふわと気持ちよくなってきた結衣は、急速に微睡み(まどろみ)の淵に滑り落ちていった。

 突然、額に衝撃を感じ、結衣はぱっちりと目を開いた。
 ソファに横たわる自分の両脇に手をついて、少し怒ったような顔をしたロイドが見下ろしていた。

「起きろ」

 そう言って、もう一度結衣の額を叩くと、ロイドは身体を起こし、ソファの背にもたれ腕を組んだ。

「私、寝ちゃったの?」

 結衣が、のろのろと起き上がり尋ねると、ロイドはふてくされたような表情で、吐き捨てるように言う。

「ったく。急に力が抜けたと思ったら……。寝るか? 普通、このシチュエーションで」

 ロイドが何を怒っているのかよく分からないが、一応言い訳してみる。

「私、お酒飲んだら眠くなるのよ」
「だから一気に飲むなと言ったんだ。もう、おまえには酒は飲ませない」
「ごめん……」


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