クランベールに行ってきます
結衣がクランベールにやって来た一週間前、王子は東屋の石段を踏み抜き、偶然、地下遺跡を発見した。その後も何度が探検に出かけ、ジレットに見せてあげる約束をしたという。
誰かに見つかると探検できなくなると思い、東屋の石段を復元しておいて、もっぱら霊廟から出入りしていたらしい。
そして失踪した当日、午後から王に呼ばれていた事を忘れ、少し遺跡に長居をしすぎた。思い出して王の元に行ったところ、騒ぎになっている事を知ったという。
ロイドが自作マシンで捜索を行う事を聞いて、王子はイタズラ心が湧いてきた。
「多分すぐに見つかるだろうと思ったけど、ロイドのマシンとかくれんぼしてみたくなったんだ。だから父上にお願いして、僕が王宮内にいる事は黙っててもらったんだよ」
王もまさか、ここまで事が深刻化するとは思ってもみなかったのだろう。溺愛する息子のお願いに頬を緩める王の姿が目に浮かぶようだ。
王子は王の承諾を得て、再び地下に潜り、うっかり謎の装置の全遺跡同時作動スイッチを押してしまったのだ。
時を同じくして、ロイドの人捜しマシンが作動した。そして結衣が現れた。
遺跡の装置は、ちょうどロイドの研究室の真下に位置するらしい。
結衣の出現により、事態は王子の思わぬ方向に動き始めた。
「どうして、すぐに出て来なかったのよ」
結衣が非難するように尋ねると、ロイドがすかさず額を叩いた。
「タメ口きくな」
結衣は額を押さえ、ムッとした表情でロイドを睨む。王子はおもしろそうにクスクス笑った。
「かまわないよ。ユイは他人のような気がしないし、ロイドと同じ僕の友達だよ。ロイドだってかまわないのに、律儀だよね」
そして王子は、意味ありげな視線をチラリとロイドに向ける。
「僕は、すぐに出て行こうと思ったんだけどね。父上がユイを気に入っちゃって、どうしてもロイドのお嫁さんにしたかったみたいで、もう少し二人が仲良くなるまで見守りたいって言うから……」
ロイドは居心地悪そうに、王子と結衣から視線を逸らして、天井を見上げた。