クランベールに行ってきます
今思えば、王は溺愛する王子の行方より、ロイドと結衣の結婚の方ばかり気にしていたような気がする。所在を知っていたなら、王子の行方など気にならなくて当然だ。
「今まで、どこにいたの? ずっと遺跡にいたわけじゃないんでしょ?」
結衣が再び問いかけると、王子は平然と言う。
「遺跡にいた事もあるけど、普通に王宮内にいたよ。二日目は父上の部屋にいたけど、三日目からはユイがロイドの研究室にずっとこもってたから、僕は普通に王宮内のいろんなところにいたよ。ユイとロイドの動きはラクロットが知らせてくれてたしね」
「夜は王様の部屋にいたの?」
「うん。最初の日だけ客室に泊まったんだけど、お風呂にタオルがなくってさ。捜して歩き回ったら、幽霊がいるって騒ぎになっちゃって、二日目からは鍵をかけられて入れなくなったんだよ」
結衣は思わずため息をつく。
「やっぱり、あなただったのね。厨房の料理を持って行ったのもあなたでしょ」
結衣が指摘すると、王子はふてくされたような表情で腕を組み、抗議する。
「だって、僕の食事はユイが食べちゃうんだもの。父上がこっそり分けてくれてたけど、全然足りないよ」
王宮内を探検したときに知ったが、王子はラクロット氏に内緒で、時々厨房で間食していたらしい。確かに食べ盛りの少年には、他人の食事の一部では足りないのだろう。
王子はイタズラっぽく笑うと結衣を見つめた。
「ユイが頻繁に厨房に出入りするから、僕が行っても怪しまれなくて助かったよ。ロイドがうらやましかったな。毎日おいしそうなお菓子を食べられて」
そして王子は思い出したように手を打った。
「あ、あれ、おいしかったよ。この部屋に置いてあった紙袋に入ってたお菓子」
何の事か分からず、結衣は一瞬キョトンとした。——が、すぐに思い出した。
二日目の朝、厨房で貰ったカップケーキの事だ。夕方、食べようと思ったらなくなっていて、てっきりラクロット氏かロイドに処分されたと思い込んでいた。
「あれ、あなたが食べたの?」
「うん。ユイが外に出た隙に、おもちゃを取りに来て、偶然見つけたんだ」