クランベールに行ってきます


 結衣はガックリと肩を落とす。

「あれは私じゃなくて、パルメが作ったの。もう。後で食べようと思って、楽しみにしてたのに……」
「そうだったんだ。でも彼女のお菓子も、おいしいよね」

 そう言った後、王子はロイドを見つめてクスクス笑い始めた。

「僕ね、何度も見つかったって思ったんだけど、ロイドったら、いつもは冷静で頭が切れるのに、ユイが絡むと、おもしろいほど判断力が鈍るんだよ。ユイが東屋の石段を壊したとき、後でロイドが調べに来たって言うから、てっきり遺跡が見つかって、僕が隠れていた事がばれるだろうと思ったのに、なんだか陰謀説になっちゃったし。ユイが攫われそうになった後は、僕が異世界に飛ばされた事になって、びっくりしちゃった」

 楽しそうに語る王子の声を聞きながら、ロイドはきまりが悪そうに黙って目を伏せている。
 王子が異世界に飛ばされたかもしれないと分かったとき、ロイドがどれだけ心を痛めていたか、結衣は知っている。あの時のロイドの様子を思えば、笑い事ではない。

「笑わないでよ。ロイドは本当にあなたの事を心配して、悩んでたんだから」
「言うな、ユイ」

 王子を非難する結衣を、ロイドは静かに制する。王子は微笑んでロイドを見つめた。

「ごめんね、ロイド。ロイドが心配してるだろうとは思ったけど、父上とラクロットの話を聞いてると、ロイドのマシンがどこまで進化するのか、ちょっと興味があったんだ」
「いえ、お気遣い無用です」

 そう言ってロイドは軽く頭を下げた。王子は小さく頷いて結衣に視線を移す。

「でも、ユイは目ざといよね。遺跡に気付いたのもユイでしょ? あの時は、今度こそ見つかったと思ったもの」
「あの時?」

 結衣が首を傾げると、王子は身を乗り出して指差した。

「ほら、二人で遺跡に来たとき、帰り際に誰かいるって気付いたじゃない」
「あれ、あなただったの?」

 結衣は呆れて目を丸くする。王子はにっこり笑って頷いた。

「うん。咄嗟にロボットを放ってごまかしたら、あっさり引き下がってくれて助かったよ」


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