クランベールに行ってきます
少しして冷えたお茶の入ったグラスを持って、ロイドが戻って来た。差し出されたグラスを受け取り、結衣がお茶を飲み始めると、ロイドが大きくため息をついた。
「どうしたの?」
結衣が首を傾げると、ロイドは中空をぼんやり見つめたまま、独り言のようにつぶやいた。
「何やってたんだろうな、オレは。ひと月近くも。殿下の事も、遺跡の事も、全部おまえの言った通りだった」
やはり、呆気なさ過ぎる結末が、ロイドを落胆させたらしい。結衣は少し微笑んでロイドの腕に手を添えた。
「でも、マシンの改造は無駄じゃなかったと思うわ。これからも、きっと役立つと思うし。あれは、あなたにしか出来ない事だもの」
ロイドは結衣を見つめて少し笑顔を見せた。
「あぁ。確かに数少ない収穫のひとつだ」
結衣の髪をサラリとひと撫でして、ロイドは気が抜けたように嘆息した。
「だが、急にヒマになって困ったな。本当は今夜中に内蔵プログラムの変更だけでも、しておこうと思ってたんだが、それも必要なくなったし。残処理があるにはあるが、明日の午前中には片付くな。おまえは、どうする?」
「え? 何が?」
突然、話を振られて、結衣は面食らった。結衣はいつも研究室にいるだけで、何も手伝ったり、仕事をしたりしているわけではない。
ロイドは穏やかな表情で、静かに問いかける。
「元々は三日後の朝の予定だったが、明日の真夜中、正確には明後日だが、ニッポンに帰る事も出来るぞ」
そんな事、答えは決まっている。
結衣はロイドを真っ直ぐ見つめて、キッパリ答えた。
「予定通りでいい。最後まで、あなたと一緒にいたい」
「そうか」
ロイドがホッとしたように微笑んだ。彼が自分と同じ気持ちなのだと思うと嬉しかった。