クランベールに行ってきます
結衣が頷くと、ロイドは一層目を細め、軽く額を叩いた。
「無理するな。さっき足がすくんでただろう。急がなくていい。おまえの迷いが完全に消えるまで待ってやる」
「だから、もう迷ってないってば!」
結衣が食い下がると、ロイドは腕をほどいて席を立った。
「煽るな。もう充分限界なんだ」
「だったら、どうして? あなたの方が迷ってるんじゃないの? 私が帰らないって言ったら困るから」
「そうじゃない。オレはおまえを抱く事に関して、迷いは一切ない。だから、やばいんだ」
「え?」
意味がわからず、結衣は訝しげにロイドを見上げた。ロイドは結衣を見下ろして、大真面目に答える。
「言っただろう。オレは歯止めのきかない男だ。おまえが途中で怖くなって嫌がっても、止められそうにない。だから、確固たる決意を持って臨んでもらいたい」
「……え……」
まるで重要任務に赴く特殊部隊にでもなったような気がして、結衣が絶句していると、ロイドはクルリと背を向けた。
「少し待ってろ」
そう言い残して、ロイドはリビングを出て行った。
一人になった途端、せっかく高まっていた気持ちに水を差されて、結衣はムカムカと腹が立ってきた。これって、女に恥をかかせるってヤツじゃないだろうか。
苛々しながら待っていると、ロイドがグラスを持って戻って来た。それを結衣に突きつけ、命令する。
「こいつを飲め」
差し出されたグラスには、先日飲んだ赤い果実酒が入っていた。
「私に酒は飲ませないんじゃなかったの?」
「おまえ、酒を飲んだら眠くなるんだろう? こいつを飲んで、さっさと寝ろ」
結衣は眉間にしわを寄せ、プイッと顔を背けた。
「いらない」