クランベールに行ってきます
一気に酔いが吹っ飛ぶような、背筋が粟立つ感覚に、結衣は思わず声を上げた。
「ひゃあぅ!」
ロイドは慌てて顔を上げると、非難するような目で結衣を見る。
「なんだ、その色気のない声は」
「だって。首、ダメなのよ。美容院でこの辺を触られるのがイヤだから、髪を伸ばしてるようなもんだし。あなたのアレも本当は苦手なの」
「アレ?」
「癖なの? ほら、よく耳元でコソコソしゃべるじゃない。背中がゾクゾクするのよ」
「ふーん」
ロイドは小刻みに頷きながら、ゆっくりと結衣の横に腰を下ろした。そして意地悪な笑みを浮かべると、指先でいきなり結衣の首筋をツッと撫でた。
「この辺か?」
「やめてったら!」
結衣は両手で首をガードし、上半身をロイドの射程距離から遠ざけた。するとロイドは、無防備になった脇腹をつまんだ。
「こっちはどうだ?」
「きゃあ!」
身をよじって背中を向けると、今度は背中の真ん中を指先が走った。
「こことか?」
「いやぁ!」
悲鳴を上げて転げ回る結衣の身体を、ロイドはおもしろそうに指先であちこち、つつき回す。
やがて、暴れて酔いの回った結衣が、動けなくなるほどヘトヘトになると、ロイドはつつくのを止めた。
「はぁ……意地悪……もう、許して……動けない……」
ソファに横たわり荒い息を吐きながら、結衣が懇願すると、ロイドはクスクス笑った。
「そそられるセリフだな。だが、ポイントは押さえたから、今日のところは勘弁してやろう」
ロイドは立ち上がり、リビングの隣にある寝室の扉を開いて戻って来た。そして、ぐったりとした結衣を抱き上げて運び、ベッドに横たえた。
「おやすみ」
挨拶と共に額にキスをして、ロイドは寝室を出て行った。
扉が閉まり部屋が暗くなった途端、急激に睡魔に襲われ、あっという間に結衣の意識は遠退いた。