クランベールに行ってきます
明後日には日本に帰って、いつまたクランベールに来る事が出来るのか分からないのだ。ロイドとの結婚など夢でしかない。そもそもロイドが結婚を考えているのかも分からない。
ロイドは王に何も言われてないのだろうか。気になったので尋ねてみた。
「何度か言われたぞ。それどころじゃないとか、相談中ですって言い逃れた」
口裏を合わせたわけではないのに、全く同じ事を言っていた事が分かり、二人は顔を見合わせて吹き出した。これでは王も、出任せだとは思わなかっただろう。
王はロイドが結婚する時、盛大な結婚式を催してくれると言っているらしい。それが煩わしくて、ロイドはこれまで、何度か薦められた縁談を、のらりくらりと躱してきたらしい。
別に結衣との結婚が嫌なわけではないようなので、ホッとした。
「いつか、しよう」
「何を?」
あまりにサラリと告げられて、結衣は思わず問い返す。
ロイドは結衣の頬に手を添えて、少し笑った。
「結婚だ」
結衣も淡く微笑んで、小さく頷いた。
「うん」
”いつか”なんて日は永遠に来ないと、何かで聞いた事がある。
明後日には日本に帰る自分にとって、当てのないプロポーズでも、ロイドの気持ちが嬉しかった。
「陛下には事後報告だな。盛大な式は肩が凝りそうだ」
「きっと残念がるわよ」
「盛大なのは、殿下の時があるから、大丈夫だろう」
「それもそうね」
二人は再び、顔を見合わせて笑った。