クランベールに行ってきます


 ローザンは王子と結衣を見比べ、結衣に向かってにっこり笑う。

「いやぁ、こうしてお二人同時に見比べても、やはりよく似てますよね。でも、若干ユイさんの方が女性っぽいですけどね」

 白々しいセリフと若干という言葉に引っかかりを覚えて、結衣はつい意地悪をしてみたくなった。

「ボク、レフォールだよ」
「え?」

 途端にローザンは困惑した表情で、むこうにいる王子に視線を移した。
 王子は結衣に合わせて、腕を組みながら、ふくれっ面をしてみせる。

「申し訳ありません。殿下」

 ローザンが慌てて結衣に頭を下げると、むこうで王子が吹き出した。隣でジレットもクスクス笑う。
 ローザンは益々困惑したように、周りをキョロキョロ見回した。
 見かねたロイドが、横から結衣の肩を叩いた。

「あんまり、からかうな」

 しばらく呆けていたローザンが、やっと状況を理解してわめいた。

「ひどいじゃないですか、ユイさん! お茶とお菓子をご馳走してくれるって言うから来たのに、本当はぼくをからかうのが目的だったんですか?」
「ごめんごめん。お茶とお菓子の方が本当よ。取りに行ってくるから、少し待ってて」

 結衣は苦笑してローザンをなだめると、研究室を出て厨房へ向かった。
 出来上がったケーキをワゴンに乗せて研究室に戻ると、ロイドとローザンが机と椅子をセッティングしておいてくれた。
 今日のケーキはアップルパイにした。まずは人数分のお茶を淹れ、続いていつものように丸ごと一個のアップルパイをロイドの前に置くと、ジレットが目を丸くして尋ねた。

「ヒューパック様、それ、全部お一人で召し上がるんですか?」
「はい」

と大真面目に答えるロイドを見つめ、ジレットは驚いて息を飲む。
 見慣れない者が驚くのは無理もない。見慣れていても胸焼けがしそうなのだ。

「あまり見ない方がいいわよ。気持ち悪くなるから」

 結衣はジレットに忠告を与え、全員にパイを配り終えると席に着いた。
 今までは王子捜索の合間の息抜きだったお茶の時間が、今日はのんびり、ゆったりとした気分で過ごせて、なんだか至福の時のように思えた。

 しばらくの間、パイを食べながらお茶を飲んでおしゃべりをした後、結衣とロイドを残して、皆は研究室を後にした。
 ジレットは明後日、結衣の日本帰還をわざわざ見送りに来てくれると約束した。

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