クランベールに行ってきます
「もう少し寝てる?」
結衣が尋ねると、ロイドは枕元のメガネを取って、気怠げに立ち上がった。
「いや、起きる」
目をこすりながらロイドは、のろのろと結衣のいる入口に向かって歩いて来る。
「だって眠そうだし」
「血糖値が下がってるからだ。食えば目も覚める。——というわけで、少し補給させろ」
入口にたどり着いた途端、ロイドはいきなり結衣を抱きしめてキスをした。
ほんの数秒後に、結衣はロイドを突き飛ばした。
「だったら、ごはんを食べなさいよ!」
ロイドはメガネをかけながら、不思議そうに首を傾げる。
「なんか昨日から、やけに嫌がるな」
結衣はクルリと背を向けて、リビングに向かった。
「脈絡がなくて、唐突だからよ」
ソファに座るとローテーブルは低すぎるので、二人は床に座って朝食を摂った。食事をしながら今日の予定について話す。
「休みの日って、いつもは何してるの?」
「大概は何か作ってるな。朝から始めて、気が付いたら夜になってる」
結衣は思わず苦笑する。仕事の日とあまり変わりがないのではないだろうか。
「じゃあ、今日も何か作るの?」
「それじゃ、おまえが退屈だろう。何がしたい?」
王宮内で出来る事など、限られている。結衣は少し笑って答えた。
「特に何も。あなたと一緒にいられるならば、それでいい。何もしないで、ぼんやり座ってるだけでも」
「それもいいかもな」
そう言ってロイドは微笑んだ。
最後の一日は、ゆったりと過ぎていく。
ソファに座って他愛もない話をしたり、地下の遺跡をもう一度見に行ったり、以前ロイドに教えたオセロゲームで遊んだりした。そして時々キスを交わした。
やがて夕日が沈む頃になると、結衣は途端に寂しさを感じた。
かつて、途方に暮れたロイドがつぶやいた言葉を、自分も思わずにはいられない。
『どうして一日は、二十四時間しかないんだろう』