クランベールに行ってきます


 結衣はロイドの肩に頭をつけて、もたれかかった。

「なんだ、もう眠くなったのか?」

 ロイドが不服そうに問いかける。結衣は目を閉じて、少し笑みを浮かべた。

「違う。あなたに、くっついていたいの」

 からかうような調子で、ロイドが再び問いかける。

「欲情したのか?」
「そうかもね」
「……切り返しが、うまくなったな。なんか調子が狂う」

 不満げなロイドの声がおかしくて、結衣はクスリと笑った。
 しばらくの間そのまま、時々話をしながら酒を酌み交わした。
 ロイドはタバコを吸いながら、次々と酒を飲み、結衣がわずか二センチほどの酒をチビチビと舐めている間に、一瓶丸ごと空にした。

 タバコをもみ消すと「もう一本持ってくる」と言って、ロイドは席を立った。
 見た目は平気そうだが、かなり酔っているのではないかと、心配して見ていると、リビングの出口に向かうロイドの足取りは、全く普通と変わらない。それでも心配なので、一応忠告してみた。

「あんまり飲み過ぎない方がいいんじゃない?」

 ロイドがピタリと歩を止めた。立ち尽くしたまま、少し俯いて、肩が震えているように見える。
 結衣は慌てて立ち上がると、ロイドに歩み寄った。

「やっぱり酔ってたのね。大丈夫? 気持ち悪いの?」

 結衣が背中を撫でようと手を伸ばした時、ロイドがポツリとつぶやいた。

「酔ってない。素面(しらふ)でなんかいられるか。なのにちっとも酔えない」

 俯いたロイドの口から、堰(せき)を切ったように言葉がほとばしる。

「おまえが泣くのはイヤなんだ。だから、おまえを不安にさせないように、毅然としていようと思えば思うほど、心は平静でいられない。たとえ一分一秒でさえも、おまえがオレの手の届かない所へ行ってしまうなど、考えただけでも耐えられない。自分がこんなにも聞き分けのない子供だとは思わなかった」


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