クランベールに行ってきます
ロイドは振り返ると、思い切り結衣を抱きしめた。
「本当はおまえをニッポンに帰したくなんかない。ずっと側にいて欲しい。どうしようもなく、おまえが好きだ。愛してる」
結衣の頬を涙が伝う。反して口元には笑みが浮かんだ。
「こめん、泣いちゃった。あんまり嬉しくて。でも、それって最初に言う言葉じゃない? あなた、いきなりキスなんだもの」
「そんな事誰が決めた。おまえの唇には、ついつい誘われるんだ」
「魔性の唇だものね。言わなくても分かったけど、どうして今まで言わなかったの?」
「おまえを悩ませたくなかった。だが、結婚しようと言っても揺るがなかったし、おまえの決意が固い事は分かった」
「だって、せっかくあなたが私のためにマシンを改造してくれたし、帰った方がいい事も分かってるもの」
「そうか」
ロイドは少し間を置いて、しがみつくように結衣を抱きしめた。
「オレがもっと出来の悪い科学者ならよかったんだ。おまえをニッポンに帰す方法も、マシンの改造方法も分からなければ、おまえを帰さずに済んだのに」
結衣はなだめるように、ロイドの背中をポンポン叩いた。
「弱気なあなたなんて、らしくないわ」
「今だけだ。明日には忘れろ」
結衣はロイドを強く抱きしめ返した。
「忘れない。忘れたくない。消えない思い出を私に刻んで。決してあなたを忘れないように」
顔を上げると、ロイドが真顔で見下ろしていた。結衣が微笑んで見つめると、ロイドは無言のまま結衣を抱き上げ、寝室に向かった。
寝室に入り、結衣をベッドに横たえると、ロイドは一旦結衣の元を離れた。結衣は横向きに転がり、彼の姿を目で追う。
終始無言のまま、ロイドは寝室の扉を閉め、再び結衣の元に戻ると、メガネを外して枕元に置き、ベッドの縁に腰掛けた。