クランベールに行ってきます
結衣が涙声で益々しがみつくと、ロイドは少し間を置いて、小さくため息をついた。
「……ったく。突然会いに行って、驚かせてやろうと思ってたのに」
「え?」
驚いて見上げると、ロイドは自嘲気味に笑った。
「いや、詭弁だな。本当はさっきまで、行くべきか迷ってた。おまえはニッポンに帰ると決めているし、遺跡の装置を徹底的に調べて、時空移動装置を完成させるつもりだ。だが、調査に手間取れば何年かかるかわからない。当てのないオレを待って、人生を犠牲にしろとは言えない。だからおまえに想いを告げるつもりはなかった。酔った勢いでおまえを抱いて、それを思い出に終わりにしようと思った。だが酔えないんだ。焦れば焦るほどおまえを手放したくなくなる。それで、つい暴露してしまった。自制できなかったって事は、実は酔ってるのかもしれないな。もう、ごまかしはきかない。必ず時空移動装置を完成させる。だから待ってろ」
「うん。だけど、どうして今度なの?」
不思議そうに尋ねる結衣に、ロイドはイタズラっぽく笑う。
「馬は目の前に人参をぶら下げられると、よく走るんだ。食っちまったら満足して走らなくなる。言っただろう? 一分一秒でも、おまえを手放すのは耐えられない。オレは気の長い方じゃないんだ。そんなには待たせない。必ず近いうちに、おまえを迎えに行く」
高らかに宣言して、ロイドは結衣を抱きしめた。
今日で終わりじゃない。ロイドならきっと、すぐに迎えに来てくれる。そう思うと再び涙が溢れ、結衣はロイドの胸に頬を寄せた。
「うん。待ってる。あなたが出来の悪い科学者じゃなくてよかった。ねぇ、もう一度聞かせて」
結衣のおねだりに、ロイドは耳元に顔を寄せる。
「愛してる」
そして、こめかみにキスをした。
「その言葉、ずっと聞きたかった」
耳元で囁かれるロイドの声に、背中がゾクリとしたが、それは不思議と心地よかった。