クランベールに行ってきます
むこうからロイドが大声で呼んだ。
「ユイ、そろそろ準備しろ」
「うん」
人捜しマシンの側まで行くと、ローザンが立ち上がり、笑顔で右手を差し出した。
「ユイさん。お疲れ様でした」
「ローザンも、関係ない事手伝わされて、お疲れ様。それに色々ありがとう」
結衣は手を握り返し、ポケットから以前もらった薬の袋を出して見せた。
「これ、ありがとう。ゆうべ服用しようかと思っちゃった」
「え? いじめられたんですか?」
ローザンは困惑した表情で、結衣を見つめる。心なしか頬を赤らめているようだ。
「ちょっと、何か勘違いしてるでしょう」
結衣が目を細くして軽く睨むと、ローザンは頭をかいて照れくさそうに笑った。
「いやぁ、ユイさんも最近、鋭くなってきましたね」
「もう! ここの男共ときたら!」
結衣が呆れてため息をつくと、ロイドが横からローザンの肩を叩いた。
「ほら、おまえはさっさと配置に付け」
「はい」
ローザンは返事をして、メインコンピュータの前に座った。
「ユイ。おまえはこっちだ」
ロイドに促され、結衣はロイドに続き、ガラスの筒の中に入った。
およそ一ヶ月前、この中で初めてロイドに会った。横柄で強引でセクハラな、第一印象最悪の奴を、まさかこんなに好きになるとは思ってもみなかった。
ロイドは中央まで来ると、そこに結衣を立たせた。
「転送直前に酷く眩しくなるが、あまり派手に動くなよ」
「うん」
結衣は電源を切ったままの小鳥を、ロイドに差し出した。
「この子をお願い」
「あぁ。預かっとく」
受け取った小鳥をポケットに収めると、ロイドは結衣を抱きしめた。
「ちょっ……!」
結衣が慌てて筒の外に目を向けると、王子がジレットを促して、二人でクルリと背を向けた。ラクロット氏は静かに目を伏せている。ローザンはコンピュータ画面を凝視していた。
「必ず迎えに行く。待ってろ」
「うん」
結衣は微笑んで頷いた。