クランベールに行ってきます
ロイドがやって来るまでには、少し時間があるはずだ。それまでなんとか適当にごまかさなければならない。
「あ、あぁ、秘密ね。それなんだけど、ここで教えるのは無理なんだ。……その、準備とか必要だし……」
「準備、ですか?」
ジレットがキョトンとして首を傾げる。
我ながら、かなり苦しい言い訳だと思う。いったいどんな準備をすればいいんだか。
苦笑を湛えてジレットを見つめていると、頭の上からロイドの声がした。
「殿下——っ!」
ジレットが結衣の頭上を見上げて、口を押さえ小さな悲鳴を上げた。
頭の上に影が差し、振り向きざまに見上げると、日の光を背にした巨大な影が目の前に降ってくるところだった。
結衣が声も出ないほど驚いていると、目の前にフワリと降り立ったロイドは、ジレットに向かって恭しく頭を下げた。
「ジレット様、お久しぶりです。お邪魔して申し訳ありません」
挨拶をするロイドを見て、ふと、我に返った結衣は、
「ジレット、ちょっとごめん」
そう言って断ると、ロイドの腕を掴んでジレットの元から遠ざかった。
声が聞こえない所まで充分に遠ざかると、結衣はロイドの手を離し小声で怒鳴った。
「びっくりするじゃない! どこから飛んできたの?!」
「二階のテラスだ。ちょうど用があって部屋に戻っていた」
見るとロイドは、背中に銀色のランドセルのようなものを背負っている。
「何? それ」
「反重力飛行装置の試作品だ。今のところオレの体重じゃ、このくらい浮くのが限度だが」
そう言ってロイドは両ひざを曲げて見せた。確かに身体が沈むことなく宙に浮いている。
「高い所から低い所への滑空や、着地時の衝撃を緩和するくらいの役には立つ。おまえならもう少し浮くかもな」
また、何の役に立つのか微妙なマシンのようだ。”空が飛べたらおもしろい”という発想のような気がする。
結衣はロイドの腕に手をついて、思い切りため息を漏らした。
「我が子自慢は後でいいから」