クランベールに行ってきます
わめくローザンの鼻先に、ロイドは人差し指を突きつけた。
「おまえの都合より殿下の方が、はるかに優先順位が高い。わかりきった事だ」
ロイドはローザンの抗議を一蹴すると、出口へ向かう。
「オレは日が暮れる前に調べる事があるから、そいつは任せた。自力で歩けないようなら呼んでくれ。そいつが通信機を持ってる」
口を挟む隙を与えないロイドに、すっかり諦めモードのローザンは、大きくため息をついて従った。
「わかりました」
部屋を出ようとするロイドに、結衣は声をかけた。
「あの、なんとか自力で帰るようにするから」
ロイドは不機嫌そうに結衣を睨むと、
「おまえは、これ以上勝手な事をするな。ローザンの判断に従え」
と厳しく言い放ち、扉を閉めた。
なんだか、いつにも増して横柄さがパワーアップしているような気がする。
ローザンはロイドを見送った後、ガックリ肩を落として、とぼとぼと結衣の乗った診察台の側に戻って来た。
「相変わらず、強引な人だ……」
ぼやくローザンに結衣は問いかけた。
「いつも、あんな風なの?」
「はい。でも今日は、特に機嫌が悪そうでしたね。あ、ちょっと失礼します」
そう言いながらローザンは結衣の靴を脱がせた。ローザンは血の滲んでいる右足を少し眺めて、結衣に許可を得ると、パンツの裾からひざのあたりまで、ザクザクとハサミで切り開いた。
結衣は一連の作業を、ぼんやりと眺めながらポツリとつぶやいた。
「たぶん、私のせいなの」
「え? 何がですか?」
ローザンは、デジカメのようなもので結衣の足を撮影しながら尋ねる。
「ロイドの機嫌が悪い理由」
「そうなんですか? 骨に異常はないようですね」
結衣の話を聞きながらも、ローザンはてきぱきと治療を進める。先ほどのデジカメはレントゲンのようなものだったらしい。