クランベールに行ってきます
「話が飛躍しすぎてるぞ」
そして、そう言った後、クスリと笑う。
「そうか、背が高い事を気にしているのか。殿下と同じなら、オレにはちょうどいいけどな。あんまり小さいとキスをするのも一苦労だ」
呑気に笑うロイドに、結衣は一気に脱力して肩を落とした。
「あなたの女の好みなんて、どうだっていいわよ」
「まぁ、体型はともかく、その声は何とかしないとな」
「だから、無理だって言ってるでしょ?」
「オレにかかれば無理ではない」
ロイドはニヤリと笑い、ポケットからピルケースを取り出した。
フタを開け、中から直径二〜三ミリの銀色の粒を指先でつまむと、結衣に差し出した。
「こいつを飲め」
結衣は顔を近づけて、ロイドの指先を見つめる。
「何? これ」
「声帯の振動を制御するものだ」
結衣は腕を組み、眉間にしわを寄せると、苛々したように言った。
「学者語でしゃべらないで。わかるように説明して」
ロイドは面倒くさそうにひと息つく。
「これを飲めば、女の声が男の声に変わるんだ。わかったらさっさと飲め」
そう言って、銀の粒を結衣の鼻先に突きつけた。
結衣はその手をはたくと、ロイドを睨んだ。
「イヤよ! あなたの作ったものなんて信用できない!」
「誰に向かって言っている」
怒りにも似た不快感を露わにして、ロイドが結衣を睨め付ける。
その静かな迫力に気圧されて、幾分畏縮しながらも結衣は反論する。
「だって、この機械だって壊れてたじゃない」
両手を広げて指し示すと、ロイドは額に手を当て目を伏せた。
「壊れてたわけじゃない。誤動作は想定外の外的要因によるものだ。オレが欠陥品を作ったのでも、今日初めて動かしたのでもない。これまでは正常に作動して、それなりの実績もある。でなければ、大切な殿下の御身の捜索にこの装置を使用する事を陛下がお許しになるわけないだろう」
そして、再び銀の粒を結衣に差し出す。
「こいつも、一年かけてオレが自分の身体で臨床試験を行っている。人体への実害も常用による弊害もない事は立証済みだ。安心して飲んでいい」
結衣が少し安心しかけた時、ロイドが余計な一言を付け加えた。