クランベールに行ってきます
何食わぬ顔で指についたチョコレートを舐めているロイドに苦笑すると、ローザンは結衣に言う。
「ご覧の通り、ロイドさんは甘いもの大好きですよ。時々スイッチが入って、尋常じゃないほど食べるんで、見てるこっちが胸焼けしそうなほどの超甘党です」
確かに先ほどの激甘ケーキワンホール完食は、充分に胸焼けものだ。
「じゃあ、どうして厨房の女の子のお菓子を断るの?」
結衣が尋ねると、ロイドは大真面目に力説した。
「オレの超優秀な頭脳は、人並み以上にエネルギーを必要とするんだ。あれっぽっちじゃ全然足りない。中途半端に食ってストレスになるより、いっそ食わない方がマシだから断るんだ」
「確かに脳のエネルギー源はブドウ糖ですけど、ロイドさんのは人並み以上過ぎなんですよ」
ローザンは残りを死守するため、ロイドに背中を向けてケーキをつつきながら指摘した。
まんまと騙された。ゲームに勝っても負けても、ロイドに有利だったのだ。すっかり脱力して、結衣が大きくため息をつくと、ロイドが目を輝かせて提案した。
「おまえ、退屈になったら、これを作ってろ。オレがいくらでも消費してやる」
それが、ひとにものを頼む時の態度か、と思ったが、反発して「キス三十秒」が再燃しても困るので、一応承諾した。
「わかった、そうする」
ロイドは満足そうに頷くと、
「ほら、エネルギー補給したら、さっさと仕事に戻れ。少しは頭も働くようになっただろう」
と言って、ローザンの腕を掴むと、コンピュータの前に引きずって行った。
「ぼくの事、サルのように言わないでくださいよ」
二人を眺めてクスリと笑うと、結衣は次に何を作ろうか考えていた。
甘くて重量感があって、比較的簡単に作れるとなると、タルト系かなと思いながら、ハタと気がついた。
結局ロイドの思うツボにはまっている。
だが、あれだけきれいに完食されて、リクエストまで頂くと、作った者としては、かなり嬉しい。
この事に関しては、素直にいう事を聞いてやろうと、結衣は思った。