クランベールに行ってきます
三人で机を囲んで席につくと、ユイさんは丸ごと一個のクリームパイをロイドさんの前に置き、ぼくと自分には切り分けられたものを配った。残りは厨房の人にあげたのだろう。
そして、それぞれにお茶を配り、彼女も席につく。
ユイさんはお菓子作りが得意で、ロイドさんが甘い物好きだと知ってからは、時々異世界の珍しいお菓子を作ってくれる。
いつも絶妙のタイミングでお茶を淹れてくれたり、よく気が利く可愛らしい人だ。
だけど、どこかズレているというか、天然というか、思いも寄らない反応を返す事がある。
それに、とにかくニブイ。
おまけに変わり者のロイドさんの言動に動じることなく、下ネタも軽く受け流す強者だ。
『おもしろいもの』に興味を引かれるロイドさんは、彼女のそんなところに惹かれたのだろう。
ぼくが初めてユイさんに会った時、ロイドさんは酷く機嫌が悪かった。
後で聞いたら、ユイさんに八つ当たりされたという。
訳もわからず怒られて、どうやらすねていたらしいと分かり、なんだかおかしかった。
国家の重要機密をぼくにバラしてでも、ユイさんのケガを診て欲しかったほど、彼女を気に入ってしまったらしい。
人嫌いではないし、むしろ社交的な方だけど、あまり人に執着しないロイドさんにしては珍しい。
まぁ、その機密を知ってしまったせいで、ぼくはここで強制的に畑違いな事を手伝わされてるわけだけど。
「ちょっと、口の横にクリームついてるわよ」
ユイさんがロイドさんを横目で見ながら指摘した。
ロイドさんはそのまま平然とクリームパイを食べ続ける。
「知ってる。どうせまたつくから、後でまとめて片付ける」
「目障りなのよ。気になるじゃない」
「オレは気にならない。気になるおまえが舐め取ってくれたらいいだろう」
「イヤよ。ひとの食べかけなんて」
「だったら、こっちを見るな」
ぼくは見ないふりをして、一心不乱にお菓子を食べ続ける。
頼むから、そういうじゃれ合いは、ぼくのいないところでやって欲しい。