クランベールに行ってきます


「かわいそう。その子、どうなったの?」
「自ら命を絶った」

 クローン少年の死後、王子は初めて真相を知った。王子は大層心を痛め、「こんな悲しい思いは二度としたくない」と、ヒトクローン作成の全面禁止を、泣きながら国王に懇願した。
 国王はこれを重く受け止め、科学技術局と全ての民間研究機関に勅令を発し、以来クランベールではヒトクローンは禁止されている。

「おまえは、クローンが何だかわかっているのか?」

 新たな質問返しに、結衣は持てる知識を総動員して答える。

「元になる生き物と、全く同じ遺伝子を持つコピーの事でしょ?」
「そうだ。いわば、人工的に作られた一卵性双生児のようなものだ。全く同じ環境で、同じものを食べ、同じ教育と愛情を受けて育ったとしても、双子が全く同じ人間にならない事は知ってるだろう。クローンも同じだ。そんな事はわかりきってた事なのに」

 最後の言葉には、いたたまれない虚しさが漂っていた。

「でも、禁止されたからって、本当にやめちゃったの? そんな、物わかりよくないでしょ? 学者バカって」

 結衣の言葉に、ロイドはニヤリと笑うと真相を明かした。

「言うじゃないか。確かにその通りだがな。禁止されたのは脳と全身の複製だけだ。四肢や臓器、皮膚の複製は禁じられていない。今は主に医療の分野で、当たり前のように実用されている。手足や胃が世を儚んで自殺したりはしないからな。転んでもタダで起きないのが、学者バカの取り柄だ」

 結衣は思わず、クスリと笑う。確かに、科学者が何かに躓いてすぐに諦めていたら、世の中は何も発展しなかっただろう。

 国王のクローンと、クローンが禁止された理由は分かったが、クローンは他にもいたはずだ。
 ロイドは、今クローンはいないと言った。不妊治療の一環として生まれてきたクローンはどうなったのだろう。

< 82 / 199 >

この作品をシェア

pagetop