クランベールに行ってきます
4.遺跡の異変
研究室に入ると、ローザンが立ち上がり、ロイドに歩み寄って来た。
「ロイドさん、科学技術局から、一度顔を出してくれって連絡がありました」
「当分行けないって、言ってあるんだがな」
ロイドがそう言うと、ローザンはうんざりしたように、ため息をついた。
「そうだろうと思って、言ってみたんですけどね。なんでも、局長の承認が下りないと臨床に回せないものがいくつかあるらしくて、手空きになる局員が数名いるそうなんです。それで副局長から延々二十分くらい愚痴を聞かされて……」
「それは災難だったな」
ロイドは憐れむようにローザンの肩をポンポン叩いた。
「それにしても、手空きになる事自体おかしいだろう。研究者なら他にやりたい事の一つや二つあるはずだ。オレなんか、一生の内にやり遂げられるかどうか分からないくらい、やりたい事があるぞ」
ロイドの意見に大きく頷いて、ローザンが同調する。
「そうですよね。ぼくなんか、やりたい事いっぱいあるのに、関係ない事を手伝ってるんですよ」
「おまえのやりたい事を、うちの局員に分けてやってくれないか?」
「いやですよ。ぼくがやりたいんですから。ロイドさんこそ、有り余ってるんなら分けてあげたらどうですか?」
「絶対、イヤだ」
やりたい事の数を競い合っている二人を不思議に思って、結衣が問いかけた。
「ローザンって、お医者さんじゃなかったの?」
結衣の声に気付いて、二人は同時にこちらを向く。ローザンが笑顔で答えた。
「医師ですよ。専門は外科と内科と循環器科です。そして、研究者でもあります」
「え? 学者さんなの?」
結衣が驚いて再び尋ねると、代わりにロイドが答えた。
「こいつ、見た目はとぼけてるが、医学博士の称号を持ってる。オレと同じ、学者バカ仲間だ。虫も殺せないような顔をして、おまえが怖がってた生体実験をバリバリにやってるぞ」
意地悪な笑みを浮かべるロイドに、結衣が顔を引きつらせると、ローザンが横から小突いた。
「変な言い方しないでくださいよ。ユイさんが引いてるじゃないですか」
確かにちょっと引いた。普段穏和なローザンが、実験動物を薬漬けにしたり、病巣を植え付けて観察したりしている姿は想像できない。
結衣が苦笑すると、ローザンも苦笑を返した。