クランベールに行ってきます
突然、ロイドが大袈裟にため息をついて、頭をガシガシかいた。
「仕方ない。明日にでも一度顔出しとくか。ったく、手空きになるのはどいつだ。喝入れてやる」
ロイドの喝って何だろう。やっぱり額をビシビシ叩くんだろうか、と結衣が考えていると、ローザンがクスクス笑いながら追加提案した。
「ついでに自宅にも寄ってきたらどうですか? ブラーヌさんが帰ってるそうですよ」
「あの放浪おやじ帰ってたのか。半年ぶりだな」
「お父さんなの?」
「あぁ、そんなようなもんだ」
結衣が尋ねると、ロイドは説明した。
ブラーヌ=ヒューパックは、幼いロイドを遺跡で拾い、そのまま引き取った考古学者だ。一年の大半を、各地の遺跡を点々として過ごし、滅多に自宅に戻らない。その生活はロイドが幼い頃から、ずっと変わらなかった。
拾われて間もない頃は、ロイドもブラーヌと共に遺跡を巡っていたが、学校に上がる頃には、ブラーヌはロイドを置いて、ひとりで旅に出るようになった。何年も帰ってこない事もあるので、以来、数えるほどしか顔を合わせていないという。
「小さい頃、大変じゃなかったの?」
結衣がそう言うと、ロイドは肩をすくめる。
「別に。近所の人が時々様子を見に来てくれてたし、むしろあいつの方が、今も生きてるのが不思議なくらいだ。あいつ、オレには自分の面倒は自分で見ろ、と言っておきながら、自分の面倒は自分で見ないんだ。放って置いたら、メシも食わずに一日中、土くれを眺めたり転がしたりしてるんだぞ」
「……え……」
ロイドも機械をいじり始めたら、周りが何も見えなくなる。血がつながってないのに、似たもの親子だと結衣は思った。
「おかげでガキの頃から、あいつの面倒までオレが見てた。ひとりの方が仕事量が減る分、楽だったな」
結衣は思わず苦笑する。ローザンが言ってたロイドの面倒見のいい性格は、こうやって培われたのかもしれない。