[修正版]草食系彼氏
「……別れよ」
無機質な、自分でも驚くほど冷ややかな声だった。消え入りそうな思いとは真逆な堂々とした声だった。しかし、とても冷たい声だった。
来季が一瞬、泣きそうに見えた。しかしそれは、私の願望が混じった幻だったのかもしれない。
来季は少し顎を引く程度に頷くと、無言で理科室の扉に手をかけた。去り際にドアの向こうに見えた目は、今まで見た中で一番苦しそうだと思った。
扉が閉まる音とほぼ同時に、私はその場にへたれこむ。先ほどの堂々とした声は、ただの見栄っ張りだったのだ。身を守る為の、下手くそな嘘だったのだ。
一人になった途端、感情が波のように襲いかかる。痛いほどに、苦しい。胸が、心臓が、心が苦しい。
私は流れない涙を目に溜めて、ひたすら扉を見つめ続けた。
開くはずのないその扉がもう一度開くのではないかと、一心に願いながら。