月と夕焼け
俺たちは職員室を出て、教室に向う。

職員室から教室まで戻る廊下に一か所だけ高等部が見える場所がある。


「あれ…遥佳さんじゃね?」

「え?」


高等部の方に目をやる。

そこには、友だちに囲まれて楽しそうにしている兄さんの姿。


「あの人、何考えてんのか分んなねぇんだよ。どう考えても今年中には婚約させられるだろ?なのに…反発一つしない」

「それが自分の運命だって理解してんだよ」

「運命なんて…自分で変えるもんだろ?」

「それは、お前には逃げる権利があるから言えるんだよ」


誠が困った顔をして笑う。

誠も兄さんと同じで、親の決めた道を歩むしかない。
政治家になるしかないのだ。


「それ、兄さんにも言われたよ」

「…そうなんだ」

「うん。まぁ、今も逃げてるしな」


もう一度、高等部の方を見る。
大口を開けて笑う兄さん。
あの、飾らない所が良いんだと思う。


「…今?」

「今日、母さん帰って来るんだよ」

「あぁ、だからホテル?」

「うん」
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