月と夕焼け
「泣いても良い。今日は俺が悪いから」

「純くんのこと?」

「あ、いや…俺と婚約して良いのって聞いたこと」

「良いよ。どんなに純くんが好きでも、結局私はパパには歯向かえない」


純くん。

美乃梨の好きな人。
だけど会うことすらできず、それでも二人はいまだにお互いを思い合っている。


「ロミオとジュリエットだな」

「私はまだ、ロミオとジュリエットが羨ましい」

「え?」

「だって、死ぬときは隣りにいれるじゃない…」


あ、泣く…。
そう思ったときすでに美乃梨は、図書館の方を向いていた。


「内緒で会いには行かないの?」

「パパを裏切らない。裏切れない」

「好きでも?」

「やっぱり親に許された恋がしたい」

「俺とのは恋じゃないよ」

「分かってる」


またこっちを見た美乃梨は、さっぱりした顔をしていた。

俺は、このまま美乃梨と結婚するんだ。

まぁ、悪いことじゃない。
この時は、本気でそう思っていた。








まだ、子どもだった。

俺はまだ

人を心から愛したことがなかったんだ。
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