月と夕焼け
「お坊ちゃま君とその人は付き合ってるの?」
「…違うよ。結婚するだけ」
「え…今時、政略結婚!?」
「そう見せかけないけどね」
「お金持ちは良く分んないね」
アスミがため息をつく。
良く分んなくて良いのかも。
知れるわけもないけど、踏み込みすぎるともっと好きになっちゃう気がする。
「一生、分かんなくて良いや」
「なんだ、それ」
「あはは……え、」
「え?」
店の前にある大きな道路の向こう側の歩道。
「…遥佳様…」
「え?」
アスミも覗き込む。
「あ、美乃梨様と…」
隣りには楽しそうな美乃梨様。
一緒に楽しそうにしている遥佳様の笑顔は、私がいくら望んでも手に入らないもの。
「あれが噂の…」
「噂じゃないでしょ」
「ふ~ん…」
興味がないのか、アスミの反応はそれだけだった。
「まぁ、どちらともそれなりに育ちは良さそう」
「それなりにって…西城グループと松永財閥だよ?」
「日本のトップ集団か」
アスミはお金持ちが嫌いだ。
私が西城家で働くと言った時に一番反対したのはアスミだった。