月と夕焼け
「ほんとに幸せそうな笑顔だねぇ。何の不自由もなく生きて来たんだろうな」

「それ…幸せなのかな?」

「え?」

「笑顔だからって、お金があるからって幸せとかじゃないんだよ」

「佳奈…?何、いきなりまじになってんの」


焦ったように、アスミが私の顔を見た。
それでも私は、遥佳様をジッと見たままでいる。


「遥佳様にとって幸せって何なんだろう」


その質問の答えを、私はだいぶ経ってから遥佳様本人から聞くことになる。


ねぇ、遥佳様…。

遥佳様には幸せなんていらなかったんですね。

でもね、遥佳様。
私はその笑顔が欲しくて欲しくて…。

気が付いたら、ものすごく欲張りになってたんです。


「佳奈、佳奈…?」

「え、」

「何、ボーッとしてんの?もうお坊ちゃま君たち行っちゃったよ」

「え、あ…うん」

「ほんとに変な子なんだから。明日からまた仕事でしょ?頑張ってね」

「うん。ありがとう」


私たちは店から出て、遥佳様たちが行ったのとは別の方向に歩いた。
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