月と夕焼け
アスミが欲しいものがあると、この街で一番大きなデパートに向かった。


「佳奈には服欲しい~とか、あれ食べた~いっていう欲はないの?」

「それって欲?」

「そう。まぁ、あんたの場合あのお坊ちゃま君が欲しいんだもんね」

「それは…」

「なに顔赤くしてんの」


呆れた顔をしたアスミにおでこを叩かれた。
ペシッという音に何人かの人が振り返る。


「も~、恥ずかしいじゃん」

「はいはい。ごめんね」

「…遥佳様は、特定の人は好きにならないよ」

「え?」

「遥佳様の中では男も女も、皆が平等なの」

「そんなの、非現実すぎる…」

「遥佳様はそれを望んでるから」


アスミがため息をつく。
私は逃げるように、服屋さんに入って話しを変える。

結局その日、私たちの中で遥佳様が話題になることはなかった。


「アスミは彼氏、どうなの?彼氏さん、めっちゃ優しいって嬉しそうに言ってたじゃん」

「なんか、何もかもが普通なんだよね」

「普通…?」

「まだ2ヵ月しか付き合ってないのに、すでにマンネリ化」

「夫婦みたいで良いと思うけど?」
< 23 / 72 >

この作品をシェア

pagetop