月と夕焼け
目の前に遥佳様。


「行ってらっしゃいませ」

「あ、」

「え?」

「椿だ」


思わず顔を上げてしまって、目が合う。
そしてその笑顔にまた、恋をする。


「椿?…あ、申し訳ありません」

「いいよ。ねぇ名前、教えてよ」

「…佳奈です」

「佳奈、庭係?」

「はい。あ…遥佳様、学校!!」

「あ、そうだった。ありがとう」


門の所で待っていた車に乗り込んで、車は見えなくなった。



西城遥佳様。
私の1つ年上で、西城家の長男。
高校3年生で、文武両道。
見た目はチャラチャラした普通の高校生。




遥佳様には優人様という名の弟がいる。

愛人である葉子様の子どもで、中学2年生。

優人様は、西城家が嫌いらしく一番近くにある別荘にメイド3人と暮らしている。





私は、西城家のただのメイド。

家が貧しくて高校には行かず、中学を卒業してからすぐにこの西城家で住み込みで働いている。


『椿だ』


私の好きな人は、遥佳様。

報われないと分かっているのに、想いは募るばかり…。
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