月と夕焼け


「そうか」


とだけ答えて、遥佳様は私の手から氷を取って私の変わりに純さんのホッペを冷やす。


「本当に仲良いですね。羨ましいです」

「だから佳奈も一緒に話そうって言ってるだろ?」

「私は、仕事があるんで…。それに怒られちゃいます」

「俺が良いって言ってるのに?」

「そうですけど」


遥佳様は、私が困るのを見るのが好きなのか、返答に困ることをいつも言われる。


「じゃ、誰にも文句を言わせなくするよ。それで良い?」

「そんなのダメです。遥佳様、私はただのメイドです」

「佳奈は俺の友だちだろ?」


引かない遥佳様。
見兼ねたように、純さんがフォローをしてくれる。


「だからな、佳奈ちゃんはお前に迷惑かけたくないの。それに、あんまりお前が佳奈、佳奈って言ってると責められるのはお前じゃなくて、佳奈ちゃんなんだよ。分かってんのか?」


いくら遥佳様が引き止めて、私がここにいるんだとしても結局は、メイドの分際で、と怒られる。

それを見ていたかのように、純さんが私に微笑んだ。
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