月と夕焼け
その日の夜のことだ。
俺は、父親と母親に呼ばれた。


「お前、最近メイドと仲が良いらしいな」

「…はい」

「美乃梨さんとの婚約はなかったことになるが、さすがにメイドは辞めてくれよ」

「え?」

「なんの家柄もない女性と一緒になることだけは許さないからな」


佳奈と俺はそんな関係ではない。
それなのに、父の言葉が異様なほど俺を苛立たせた。


「佳奈は、一生懸命に俺の世話をしてくれてるだけです」

「それなら、良いんだけど…」


なんでも許してくれる父と母。
メイドと結婚はさすがに許してもらえないのか。

俺はこのとき、その事でガッカリしている自分がいることに、一番驚いた。


「佳奈を辞めさせたりしたら、さすがに父さんでも許さないから」

「そこまではしないよ。ただ、立場をわきまえなさいと言っているんだ」

「はい」

「その佳奈とか言うメイドにもちゃんと言っておいたから」


父さんの優しい笑顔。
その言葉を聞いて、心が痛くなる。
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