月と夕焼け
「佳奈にも、立場をわきまえろと言ったの?」

「あぁ」


平然と答える父親。
俺は気が付いたら、両親の部屋から飛び出していた。


「クソッ!!」


佳奈は泣いている。
きっと、泣いている。

やっと見つけた佳奈は、庭のすみのベンチに座っていた。


「…佳奈」

「っ!?遥佳様…」


遥佳様。
せっかく2人でいるときは「君」で呼んでくれるようになって来たのに。


「佳奈…」


佳奈はやっぱり泣いていた。


「ごめんなさいっ。私が悪いんです。つい、立場なんて…忘れてしまっていて」


佳奈の目からまた、大粒の涙が流れる。


「俺は…、」


俺が話始めると同時に、佳奈がベンチから勢い良く立ち上がった。


「遥佳様、すみません。私、部屋に戻ります」


そして、走って俺の前からいなくなった。

そのあと佳奈は美乃梨に泣きながら電話をしたと、その話を聞いたのはそれから2年も経った日のことだった。


佳奈はその日からまた、ただのメイドに戻ってしまう。

俺が話かけても、何か理由をつけて俺を避けていた。
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