月と夕焼け
「私は、西城家に雇われているただのメイドです。ただのメイドは、主人と恋なんてしません」

「佳奈は、ただのメイドじゃないだろ?」


そういわれ、また涙が出る。
好きで好きで好きで。
それなのに、私はこの人を受け入れてはいけない。

私の家が、美乃梨さんのような家柄だったら…。
せめて、学校の友人だったら。


「遥佳様、私はただのメイドです」


そう言って、遥佳様の部屋から出る。
すぐにトイレへ駆け込み、声を出して泣いた。

遥佳様の汚れのない人生に、私という汚点を残すわけにはいかない。

旦那様にも言われた。
「遥佳にメイドの友人はいらないんだよ」私はそれに「すみませんでした」と返事をした。

私の仕事は、遥佳様のお世話だ。
恋人になることではない。


「遥佳くん、大好き…」


トイレの中で小さな声で呟く。
誰にも聞こえないように、自分の気持ちを確かめるために。


「遥佳くん、大好きだよ」


誰の迷惑にもならないように、私は遥佳様を思い続ける。
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