ブルーの住人 

(十一)

元々口数の少なかった老婆ですが、最近はまた、めっきりと口を動かさなくなったのです。

時とすると、ひと言も発しない日もあるようになりました。

しかしいつかは洩らすであろうと、皆が聞き耳を立てています。

「誰ぞ、もう聞き出しておるのでは?」

そんな声が、そこかしこで聞かれるようになりました。

しかし確かめる術はありません。

表面的には、互いに笑みを見せ合っている村人たちです。

創られた笑顔を見せ合って、平穏な日々です。

がその裏では、恐ろしいほどの憎悪の炎が燃えているのです。

疑心暗鬼の霧が漂っているのです。

妬みや憎悪の心を争いの根源とする土着宗教もいつか影を潜め、人間の業欲の前に如何に脆いものかをまざまざと見せつけました。

「ひょっとして、お宝の話は、お婆の作り話かの?」

「お婆に、良いように踊らされているんじゃ?」

「なにを言うとるんじゃ。

お宝なんぞ、関わりないがぞ。

可哀相じゃから、世話をしてるんじゃから。」

「ほうよ、ほうよ。

お婆は、この村みんなのお婆じゃて。」

一部の間では、老婆を終身まで世話させる為の奸計ではないかと疑いの声が上がリ始めました。

しかし今日も今日とて、訪れた家で下にも置かぬ歓待を受ける老婆です。
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