運命の人
健人を一人残したまま、走り去った車の中では沈黙が続いている。そんないつもと違う二人の様子を時折ビルがルームミラー越しに窺っては小さく溜息を吐いていた。
狭い路地裏に車を停めていたのもあり、二人が乗り込んだ途端車を出すには出したが行き先はまだ告げられていない。ビルはやっかいごとに首を突っ込みたくないのか、あてもなく走り続けるのだけは何とかして避けたいと思っている様子だった。
「ジャック、家でいいのか?」
「──ああ」
ジャックは肘をついた状態で、外の景色を瞬きもせずにじっと見つめている。窓ガラスに映るジャックの表情は険しく、とても声をかけれる様なものではない。きっとジャックが何か勘違いをしているのだと叶子は思っているものの、結局彼の家に着くまでお互い一言も言葉を発する事が無かった。
ジャックの家の扉の前に到着する。いつもならば叶子側の扉を開けてくれる彼のだが、今日は車から降りるとさっさと一人で玄関へと向かった。その態度が今の彼の気持ちなのだという事をよく表していた。
遠ざかっていくジャックの背中を見て一気に不安になってしまったのか、叶子は身体が拒否反応を起こし車から降りる事が出来ずにいた。一つの視線を感じて前を向くと、ミラー越しにビルが苦笑いを浮かべている。何か言葉をかけられるわけでもなく、叶子から声を掛けるでもない。ビルには悪いと思いながらもそれでも車から降りるのを躊躇していると、突然ガバッと扉が開かれた。いつまで経っても車から降りようとしない叶子にどうやら痺れを切らしたのか、彼女の手を掴むと車から引き摺り下ろした。
「い、痛いよ、手を離して」
「――。」
叶子の言葉を聞くつもりはないのか振り返りもせず家の中へと足を進める。引っ張られる様な状態で、暗くて長い廊下をどんどん歩いていく。
足の長いジャックの大きなコンパスでは、叶子はついていくのがやっとだった。
握られた手首が痛い。引っ張られる腕が痛い。
何を言ってもジャックの耳には届かなかった。
ジャックの部屋に入ると、右手は叶子の手首を握りしめたまま左手に持っていたコートをソファーに向かって放り投げた。そして、一直線にベッドルームへと足を進め、コートを放り投げたのと同じ様にして叶子を広いベッドの上に突き放した。
「……っ!」
弾みで目を固く閉じていた叶子だったが、すぐにジャックが自身の上に覆いかぶさって来たのが目を瞑っていてもわかる。
「やっ……ぁ、ちょっ、……な、に」
問いかけに一切応じようとしないないジャックの顔は無表情で、絶対に目を合わせようとはしなかった。
淡々と叶子の首筋に顔を埋め、舌を執拗に這わせている。相手の気持ちなど構わず、ただ己の欲望を満たそうとしているかの様に思えた。
「ね、ねぇ、こんなのやめて、話を聞いてよ!」
ジャックの肩を必死で押し返したところで、本気になった男の力の前では非力な女の抵抗など何の意味も無さないのは判っている。幾ら細身とは言え、服の上から手で触れただけでも判る筋肉質な彼の肢体。どうあがいても敵うわけが無いのだ。
それでも何の話し合いも無くただ身体を差し出すだけでは、彼の家に初めて来た時と同じだ。
(ちゃんと本当の事を話せば判ってくれるはず)
しかし、その願いは叶子の独りよがりでしかなかった。
狭い路地裏に車を停めていたのもあり、二人が乗り込んだ途端車を出すには出したが行き先はまだ告げられていない。ビルはやっかいごとに首を突っ込みたくないのか、あてもなく走り続けるのだけは何とかして避けたいと思っている様子だった。
「ジャック、家でいいのか?」
「──ああ」
ジャックは肘をついた状態で、外の景色を瞬きもせずにじっと見つめている。窓ガラスに映るジャックの表情は険しく、とても声をかけれる様なものではない。きっとジャックが何か勘違いをしているのだと叶子は思っているものの、結局彼の家に着くまでお互い一言も言葉を発する事が無かった。
ジャックの家の扉の前に到着する。いつもならば叶子側の扉を開けてくれる彼のだが、今日は車から降りるとさっさと一人で玄関へと向かった。その態度が今の彼の気持ちなのだという事をよく表していた。
遠ざかっていくジャックの背中を見て一気に不安になってしまったのか、叶子は身体が拒否反応を起こし車から降りる事が出来ずにいた。一つの視線を感じて前を向くと、ミラー越しにビルが苦笑いを浮かべている。何か言葉をかけられるわけでもなく、叶子から声を掛けるでもない。ビルには悪いと思いながらもそれでも車から降りるのを躊躇していると、突然ガバッと扉が開かれた。いつまで経っても車から降りようとしない叶子にどうやら痺れを切らしたのか、彼女の手を掴むと車から引き摺り下ろした。
「い、痛いよ、手を離して」
「――。」
叶子の言葉を聞くつもりはないのか振り返りもせず家の中へと足を進める。引っ張られる様な状態で、暗くて長い廊下をどんどん歩いていく。
足の長いジャックの大きなコンパスでは、叶子はついていくのがやっとだった。
握られた手首が痛い。引っ張られる腕が痛い。
何を言ってもジャックの耳には届かなかった。
ジャックの部屋に入ると、右手は叶子の手首を握りしめたまま左手に持っていたコートをソファーに向かって放り投げた。そして、一直線にベッドルームへと足を進め、コートを放り投げたのと同じ様にして叶子を広いベッドの上に突き放した。
「……っ!」
弾みで目を固く閉じていた叶子だったが、すぐにジャックが自身の上に覆いかぶさって来たのが目を瞑っていてもわかる。
「やっ……ぁ、ちょっ、……な、に」
問いかけに一切応じようとしないないジャックの顔は無表情で、絶対に目を合わせようとはしなかった。
淡々と叶子の首筋に顔を埋め、舌を執拗に這わせている。相手の気持ちなど構わず、ただ己の欲望を満たそうとしているかの様に思えた。
「ね、ねぇ、こんなのやめて、話を聞いてよ!」
ジャックの肩を必死で押し返したところで、本気になった男の力の前では非力な女の抵抗など何の意味も無さないのは判っている。幾ら細身とは言え、服の上から手で触れただけでも判る筋肉質な彼の肢体。どうあがいても敵うわけが無いのだ。
それでも何の話し合いも無くただ身体を差し出すだけでは、彼の家に初めて来た時と同じだ。
(ちゃんと本当の事を話せば判ってくれるはず)
しかし、その願いは叶子の独りよがりでしかなかった。