運命の人
 シャツのボタンにジャックの手が伸びた時、叶子は更に激しく抵抗した。叶子の腹部に跨っているジャックは一度上体を起こすと、首元のネクタイをするすると解いた。

「ねぇ、お願いちゃんと話し合おうよ。こんなのおかしいよ、ね?」
「……。」

 叶子が何を言おうが顔色一つ変わらない。彼女の細い手首を両手で掴むと頭上でその手首を重ね、片方の手だけで彼女の両手首を掴んだ。

「――っ! やっ! 何するの!?」
「……。」

 終始無言でその重ねた手首を先ほど解いたネクタイで縛り付けていく。もがけばもがくほどジャックから与えられる手の圧迫が強くなる一方で、次第に手首に痺れを感じだした。

「……と、──、の……?」
「え?」

 ジャックはやっと口を開いたものの、蚊の鳴くような小さな声で上手く聞き取れない。思わず聞き返してしまったことを叶子はすぐに後悔することとなった。

「彼と……。あの男とセックスしたのかって聞いてるんだ!!」

 突然鋭い目つきで大声で怒鳴りつけられ、思わず肩を竦めて目を閉じた。
 ゆっくりと目を開けてみれば、気が狂ったかのように怒りを露にしているジャックが、奥歯をギリッと噛み締めながら叶子を見下ろしている。

「な、何を言って、勘違いだよっ!」
「勘違い? ……はっ、そうだったらどんなに良かった事か!」
「本当よ! ちゃんと訳を話すから! お願いだからこんな事しないで!」

(お願い、これ以上私に不信感を抱かせないで!)

 彼にまつわる噂話のせいで、疑心暗鬼になっていたこと。信じたいのに追い打ちをかける様にまた新たな話を聞かされ、つい嘘を吐いてしまった事。
 全てを打ち明け分かり合いたいと言う叶子だったが、ジャックは怒りの余り周りが見えなくなっているのか、どんどん感情的になっていった。

「やっと判ったよ、僕を避けてた本当の理由が。あんな若造が君の身体を弄んでるだなんて……許せない。僕が、僕が今から綺麗にしてあげるから、ね?」
「――っ!?」

 完全に健人との仲を疑ってしまったジャックは、かなり混乱していた。そんな彼の言葉に叶子の顔が一気に青ざめる。叶子の髪を撫でながら微笑むジャックの目は、生気を感じる所か正常な人間とは思えなかった。

 叶子の身体を舐めるように見つめながらジャケットを脱ぐと、それをベッドの外に放り投げる。激しく抵抗したためにずり上がってしまったスカートは、もはや本来の役割を果たしていない。程よく肉付いた艶かしい太腿が無造作に投げ出され、それが逆にジャックを誘っているようにも見えた。

「カナ、綺麗だよ」
「やっ――!」

 叶子の抵抗も虚しく、情け容赦なく内腿にその大きな手を伸ばしていった。
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