運命の人
~一年後~
「ちょっと待ってよ、カナちゃん!」
その声に反応する様にピタッと立ち止まると、眉間に皺を寄せながら勢い良く振り返った。
「“マネージャー”でしょ!? マ・ネ・-・ジャ・-!」
「なんだよ! 他の奴にはマネージャーって呼ぶなって言っといて」
拗ねる様に口を尖らせる健人に、叶子はクスッと笑みを見せた。
マネージャーと呼ばれる様になってから早や一年が過ぎ、ようやくその肩書に見合う程のレベルまで自身が成長したのを日々実感する。以前と比べると自信に満ち溢れているのは一目瞭然だった。
「ねぇねぇ、メシ行こうよ。奢るからさ」
少し短くなった髪をかき上げた叶子は、堂々とした面持ちでヒールを鳴らしながら歩き出した。
「あら、珍しい。随分羽振りがいいのね」
「じゃ、決まりね!」
「ダメダメ。今から英会話学校に行くんだから」
ジャックがアメリカに行ってから程なくして、彼の言った通りお抱えアーティストのワールドツアーが本決まりになった。世界中を飛び回るせいで時間の感覚がわからなくなったのか、電話も途絶え途絶えになっていた。
そんなジャックに叶子は不安に駆られながらも彼の言葉を信じ続け、いつか彼と一緒にアメリカで生活する事を夢見ながら彼女なりに準備を進めていた。
「そんなの休めばいいじゃんかよ」
「あのねぇー、こういうのは休むと身につかなくなるのよ。わかる? “継続は力なり”よ」
「んなこと言わないでさぁー」
そう言いながら、肩に手を回してきた健人の手の甲をぎゅっとつまみ上げた。
「いってっ!」
「はいはい、また今度ね」
ジャックが日本を発ってからもうすぐ約束の一年が過ぎようとしている。最後に電話で話した時はもうすぐ日本に戻ると言っていた。
それがいつになるかは判らないけれども、その日が来るのを心待ちにしていた。
ビルのエントランスを抜けた瞬間、ふんわりと暖かい春の風が吹き抜ける。肩まで切った髪が揺れ、風にのって鼻を掠めた香りに叶子の足がピタリと止まった。
「やれやれ。相変わらずだな、君は」
聞き覚えのある柔らかい声が聞こえた。大きく目を見開いて声のする方に視線を移す。するとそこには、車のボンネットによりかかり苦笑いを浮かべているジャックが居た。
長くウェーブのかかっていた髪をバッサリと切り、ストレートのサラ髪が春の風にふわふわとなびいている。一年ぶりだというのに変わった所と言えば髪型だけで、まるで時間の経過を感じさせられない。
「……。――ジャック!」
抱きしめるように抱えていた英会話の教材が、バサバサッと音を立てて地面にこぼれ落ちる。勢い良く駆け出すと、そのままジャックの胸に飛び込んだ。
「ただいま、カナ。……逢いたかったよ」
「おかえりなさいっ!」
桜の花びらがヒラヒラと舞い降りては、春の風によって又舞い上がるのを繰り返している。そんな美しい春の光景の中、人目を気にすることも無く二人はいつまでもお互いの感触を懐かしむ様に、ただ抱きしめあっていた。
お互いを強く信じあう事で、二人は一年振りの再会を果たす。二人の運命の針は留まる事を知らず、刻々と同じペースで時を刻んでいた。
この時、抱き合いながら二人は同じ事を考えていた。
一枚のCDがもたらした二人の出逢いがもはや偶然ではなく、出逢うべくして出逢ったまさに“運命”だったのだと言う事を……。
「ちょっと待ってよ、カナちゃん!」
その声に反応する様にピタッと立ち止まると、眉間に皺を寄せながら勢い良く振り返った。
「“マネージャー”でしょ!? マ・ネ・-・ジャ・-!」
「なんだよ! 他の奴にはマネージャーって呼ぶなって言っといて」
拗ねる様に口を尖らせる健人に、叶子はクスッと笑みを見せた。
マネージャーと呼ばれる様になってから早や一年が過ぎ、ようやくその肩書に見合う程のレベルまで自身が成長したのを日々実感する。以前と比べると自信に満ち溢れているのは一目瞭然だった。
「ねぇねぇ、メシ行こうよ。奢るからさ」
少し短くなった髪をかき上げた叶子は、堂々とした面持ちでヒールを鳴らしながら歩き出した。
「あら、珍しい。随分羽振りがいいのね」
「じゃ、決まりね!」
「ダメダメ。今から英会話学校に行くんだから」
ジャックがアメリカに行ってから程なくして、彼の言った通りお抱えアーティストのワールドツアーが本決まりになった。世界中を飛び回るせいで時間の感覚がわからなくなったのか、電話も途絶え途絶えになっていた。
そんなジャックに叶子は不安に駆られながらも彼の言葉を信じ続け、いつか彼と一緒にアメリカで生活する事を夢見ながら彼女なりに準備を進めていた。
「そんなの休めばいいじゃんかよ」
「あのねぇー、こういうのは休むと身につかなくなるのよ。わかる? “継続は力なり”よ」
「んなこと言わないでさぁー」
そう言いながら、肩に手を回してきた健人の手の甲をぎゅっとつまみ上げた。
「いってっ!」
「はいはい、また今度ね」
ジャックが日本を発ってからもうすぐ約束の一年が過ぎようとしている。最後に電話で話した時はもうすぐ日本に戻ると言っていた。
それがいつになるかは判らないけれども、その日が来るのを心待ちにしていた。
ビルのエントランスを抜けた瞬間、ふんわりと暖かい春の風が吹き抜ける。肩まで切った髪が揺れ、風にのって鼻を掠めた香りに叶子の足がピタリと止まった。
「やれやれ。相変わらずだな、君は」
聞き覚えのある柔らかい声が聞こえた。大きく目を見開いて声のする方に視線を移す。するとそこには、車のボンネットによりかかり苦笑いを浮かべているジャックが居た。
長くウェーブのかかっていた髪をバッサリと切り、ストレートのサラ髪が春の風にふわふわとなびいている。一年ぶりだというのに変わった所と言えば髪型だけで、まるで時間の経過を感じさせられない。
「……。――ジャック!」
抱きしめるように抱えていた英会話の教材が、バサバサッと音を立てて地面にこぼれ落ちる。勢い良く駆け出すと、そのままジャックの胸に飛び込んだ。
「ただいま、カナ。……逢いたかったよ」
「おかえりなさいっ!」
桜の花びらがヒラヒラと舞い降りては、春の風によって又舞い上がるのを繰り返している。そんな美しい春の光景の中、人目を気にすることも無く二人はいつまでもお互いの感触を懐かしむ様に、ただ抱きしめあっていた。
お互いを強く信じあう事で、二人は一年振りの再会を果たす。二人の運命の針は留まる事を知らず、刻々と同じペースで時を刻んでいた。
この時、抱き合いながら二人は同じ事を考えていた。
一枚のCDがもたらした二人の出逢いがもはや偶然ではなく、出逢うべくして出逢ったまさに“運命”だったのだと言う事を……。