未熟な恋人
私が通っていた高校は、自宅からバスと電車をのりついで2時間近くの街にあった。
自宅の近くにある高校は、とてもじゃないけれど私の成績では合格できない超進学校だったり、お金持ちのお嬢様が通う女子高だったり。
工業高校もあったけれど、機械関係にはちんぷんかんぷんな私には入学する気持ちなんてさらさらなくて。
自宅からは遠いけれど、自分の学力に見合って、両親の収入でもちゃんと通わせてもらえる公立高校に入学する事にした。
通学にかかる時間さえ我慢すれば、ちゃんと三年間を楽しく過ごせると思って入学したけれど、それは甘い考えだった。
確かに母さんの協力もあって、朝早くに家を出て、夕方遅くに帰ってくる生活には対応できたけれど。
どうしても部活動に割く時間が確保できなかった。
部活を楽しみ、先輩とのつながりもでき、高校生活を充実させていくクラスメート達がうらやましくて仕方なかったけれど、通学に時間がかかる私には、どうしてもそんな楽しみを手に入れる事はできなかった。
本当なら、高校三年間部活を楽しんで、人間関係も広げたかったし青春っていうものを経験したかった。
クラスに仲の良い友達がいるとはいえ、正直、寂しくてたまらなかった。
けれど、部活を終えて家に帰った場合、10時を回るだろうし、朝だって早朝練習とかがあると、朝食やお弁当を用意してくれる母さんにもさらに負担をかけてしまう。
だから、諦めたんだ。
そんな私は、毎日の長い通学時間には、いつも本を読んでいた。
読書家の両親の本棚から抜き出した推理小説や、流行りの恋愛小説、詩集すら手に取って通学時間に読みふけっていた。
もともと本を読みだすとその世界に入り込んでしまう私は、学校の前にバスが着いてもそれに気づかずにいる事も多くて、顔見知りになった運転手さんや、同じ時間帯に乗り合わせる同じ学校の生徒たちから『着いたよ』と声をかけられることもしょっちゅうだった。